株式信用取引・FX取引を行っている方にとって最も恐ろしいのが「追証(追加証拠金)」の存在です。
初心者の方にとっては恐ろしさがピンと来ないかもしれませんが、ベテラントレーダーにとっては追証が発生したことを考えるだけで震えてしまうほど。
- 追証とはそもそも何なのか?
- 追証の計算方法
- 追証に対する対応と対策法
今回は追証について1から分かりやすく解説していこうと思います。
目次
追証とは。追証が発生してしまう仕組み!
追証とはその名の通り、追加で証拠金を口座に入金することです。
では、なぜ追証が発生してしまうのか?
これには株式信用取引・FX取引ならではの仕組みが関わっています。
株式信用取引・FXの仕組みとレバレッジ
株式信用取引・FX取引とは一言でいうと「信用(証拠金)を担保に、実際の資金以上のお金を動かせる取引」のことです。
例えば株で100万円の銘柄を買いたいのであれば、証券会社が「これだけお金を証拠金として預けてくれれば、100万円分の銘柄を買えるだけのお金を貸してあげるよ」というのが株式信用取引なんですね。
お気づきでしょうが、株式信用取引・FX取引の最大のメリットは「自分が持っているお金以上の取引ができる」ことです。いわゆるレバレッジという仕組みがこれ。
現物取引であれば自分の資金が30万なら30万までしか取引できませんが、株式信用取引を行う場合は90万円まで取引が可能となります。
純粋に3倍の資金を動かせるので、うまいこと取引が自分の思い通りに動けば利益も3倍になりますね。
株式信用取引・FXの損失は証拠金(担保)から引かれていく
当然ですが自分の思い通りの取引ができないと損失が生まれてしまうこともあります。
例えば50万円を担保にすると、国内FXであれば最大25倍のレバレッジがかけられるので1,250万円までの取引ができますよね。
1ドル100円のときに12万5,000ドル購入し、その後1ドル99円に購入したとしましょう。
「99円×12万5,000ドル=1,237万5,000円」となり、取引した時より12万5,000円の損失が生まれました。
それではこの損失はどこから補填するのでしょうか?
当たり前ですが、あなたが預けていた証拠金(担保)から損失は差し引かれます。レバレッジで動かしていたお金はFX業者の貸している架空のお金なので、そこから引かれるわけがありません。
損失が一定ラインに到達すると追証・マージンコール発生!
取引で出した損失は預けた証拠金から引かれていきます。
下手をすれば、取引で出した損失が自分の預けた証拠金ではまかないきれない場合も出てくることは容易につきますね。レバレッジ運用で実際の資金の何倍ものお金を動かしているわけだから当然です。
FX業者や証券会社は顧客の預け入れた担保(証拠金)を超える損失を避けたがります。もし顧客が担保を超えた損失を出してしまうと、FX業者や証券会社が一時的に損失を肩代わりしなくてはいけないからです。
※あくまで一時的な肩代わりです。詳しくは後述しますが、この損失分は顧客が後で支払わなければなりません。
だからFX会社や証券会社はロスカット水準という強制決済ライン(損切りライン)を設けて、損失が担保以上に出てしまうことを防ぐ仕組みを作りました。
このロスカット水準に損失が近づくとFX業者や証券会社は「このままだと損失が証拠金以上に膨らむ恐れがあるので、全てのポジションをあと少しで強制決済(ロスカット)します。もしロスカットが嫌なら追加で入金してください。」という連絡を送ってきます。
ここで追証が発生してしまうわけですね。この追証を促す警告のことを「マージンコール」と言います。
証拠金維持率と含み損という考え方
ロスカット水準を考えるときに必要なのが証拠金維持率と含み損です。
なぜならロスカット水準は各業者とも「証拠金維持率○%でロスカット」と表記されているからなんですね。
【証拠金維持率】
建玉必要証拠金に対する実行証拠金の割合。
「(実行証拠金÷建玉必要証拠金)×100=証拠金維持率(%)」で証拠金維持率は計算する。
※実行証拠金とは自分が担保として預け入れているお金のこと。建玉必要証拠金とはポジションを持つのに必要な証拠金のこと。
【含み損(評価損)】
含み損とは「保有しているポジションを決済したときに出る架空の損失」のことです。架空といったのは、まだ決済しておらず損失が「確定」はしていないからです。
逆に「保有しているポジションを決済したときに見込める架空の利益」を含み益と言います。
一つ例を挙げましょう。
- 証拠金10万円
- ドル円100円
- レバレッジ10倍
- マージンコール:証拠金維持率40%
- 強制ロスカット:証拠金維持率30%
証拠金10万円にレバレッジ10倍で1万ドル(100万円)買いとします。
ポジションを持った瞬間の証拠金維持率は「実行証拠金(10万円)÷建玉必要証拠金(10万円)×100=100%」。最初は100%からのスタートです。
【1ドル94円になった場合】
もし為替が1ドル94円になってしまうと「94円×1万ドル=94万円」となり、6万円の含み損となります。
含み損は自分の預け入れている証拠金から引かれるので、この際の証拠金維持率は
「実行証拠金(10万円-6万円)÷建玉必要証拠金(10万円)×100=40%(証拠金維持率)」
証拠金維持率が40%となってしまったのでマージンコールが発生し、追証を要求されます。
【さらに1ドル93円まで下落した場合】
もしマージンコールで証拠金を追加すれば証拠金維持率は回復です。…が、無視し続けて1ドル93円になってしまうと、
「実行証拠金(10万円-7万円)÷建玉必要証拠金(10万円)×100=30%(証拠金維持率)」
となり、強制ロスカットが執行されることになります。
マージンコール発生時の対応・対処法3選
基本的に追証とはマージンコールのことだと思っていただいても結構です。
もし証拠金維持率がマージンコールラインに達したら3つの選択肢から行動を選ぶことができます。
1.ポジションをすぐに決済して損切りする
1番現実的な対処法がすぐに保有しているポジションを決済し、損切りすることです。
損失を確定させることは気持ち的にあまり好ましくないかもしれません。しかし、株式取引・FXは突き詰めていくと「いかに利益を上げるか」ではなく「いかに損失を抑えるか」という損切ゲームになってきます。
自分なりの「これ以上の損失は絶対にダメだ」というラインを設定しておくことが最も大切なのです。
マージンコールが発生したということは、保有ポジションに対してかなり相場のトレンドが悪いことが予想できますね。下手に追加入金を行って証拠金維持率を維持し続けると、逆に損失がふくらみつづける恐れもあります。
自分にとってマイナスのトレンドが続きそうならすぐに決済して損失を抑えましょう。
2.トレンドの転換「ブレイク」が起こりそうなら追証を入れる
株式取引やFXではいつまでもトレンドが続くことはありません。確かに一定期間続くことが多いですが、とあるタイミングで逆のトレンドに転換するのです。
このトレンドの転換のことを「ブレイク」と呼ばれています。
※下降トレンドから上昇トレンドへの転換を「ブレイクアップ」、上昇トレンドから下降トレンドへの転換を「ブレイクダウン」と呼びます。
もしマージンコールが発生したときにトレンド転換が起こる可能性が高いなら相場の大チャンス。追加証拠金を入金して耐えるのもアリです。
トレンドが転換した後は長くそのトレンドが続く傾向にあるので、マイナスからプラスに持っていける可能性も十分にあります。
ただし、トレンドの転換はかなり投資の経験がないと読めないので、初心者の方はやめておいたほうが良いでしょう。
3.追加入金を行わず強制ロスカットまで粘る
あまりオススメはしませんが、追加入金を行わずに強制ロスカットが執行されるまで逆転を祈るという手もあります。
ただし、仮に強制ロスカットの執行タイミングがマーケットの締めだった場合、担保が消し飛ぶほどの損失を被る可能性もないとは言い切れません。
出来る限り損切りか追加で証拠金を入金するという行動をとったほうが良いでしょう。
本当に怖いマイナス口座の追証
一般的にマージンコールで求められる追証はトレーダーにとっては日常茶飯事とまでは言いませんが、すぐに対処できるので取り立てて焦るものではありません。
しかし、株式信用取引・FX取引を行うトレーダーはマイナス口座になった場合に発生する追証を最も恐れます。
大きなレバレッジで資金を運用していた場合、例えば相場の急変動が起こり、それが自分が保持しているポジションと逆行していると含み損が自分の証拠金以上に膨らんでマイナス口座になることがあるのです。
この場合、マイナス口座がゼロに戻るまで追加で証拠金を入れる必要があります。
例えば口座残高がマイナス100万円になってしまったら、100万円を追加入金しなければなりません。極端ですが1億マイナスになれば1億の追加入金が必要です。
ロスカットは有事の際に作動しない
「でも口座がマイナスになる前に強制ロスカットされるのでは?」
確かに日常程度の相場の変動では、ロスカットがきちんと作動するのでマイナス口座になることはありません。
しかし、まだ記憶に新しい例だとスイスフランショックやリーマンショックなど、とてつもない相場の乱高下が起こるような有事の際にはロスカットが正常に作動しません。
2015年に起きたスイスフランショックのチャートです。当然市場は大混乱となり、多額の追証を抱えるトレーダーが続出しました。
2011年ギリシャショック時のチャート。一夜明ける数時間の間に暴落し、この時も多くのトレーダーが狂乱の渦に巻き込まれることに…。
上のチャートを見てもらえると分かりますが、こんな状態でポジションを持っていたらどうしますか?
もちろんすぐにオーダーを出しますよね。それは全てのトレーダーで共通です。
数えきれないトレーダーのオーダーがFX業者や証券会社に殺到し、市場は完全にパニック状態。全ての機能が麻痺してしまうんですよね。
結果として有事の際には多数のマイナス口座が生み出されることになります。
マイナス口座の追証は借金と同じ。払えないとオワタ。
はじめにハッキリと申し上げますが、マイナス口座になって発生した追証はどうしようもありません。
マージンコールで求められる追証とは異なり、マイナス口座で発生した追証は「借金(債務)」のようなものなのです。
マイナス口座で発生した追証は一時的にFX会社や証券会社が肩代わりしてくれます。しかし、FX会社や証券会社はその後電話や手紙、あるいは債権回収会社や弁護士など、あの手この手で取り立ててくるんですよね。
もちろんマイナス口座の追証を請求する権利は法律で認められており、証券会社やFX業者の当然の権利とされています。
そのため、マージンコールは無視できましたが、マイナス口座は無視することができず絶対に口座残高がゼロに戻るまで追加入金する必要があります。
基本的に一括返済を求められる
「お前らがちゃんとロスカットできていれば…。ロスカットできなかったくせに!」
このように憤りたくなる気持ちは痛いほど分かるのですが、国内FX業者や証券会社は当たり前に追証の支払いを求めてきます。
しかも基本的には一括返済が求められます。仮に追証が10万でも100万でも1億であってもです。追証の金額は一切関係ありません。
追証が払えないと最悪財産の差し押さえ
中には追証の金額が大きすぎて一括では返済できない方もいらっしゃるでしょう。
しかし、何度もお伝えしている通り、マイナス口座の追証はれっきとした借金扱いです。各業者ごとに定められている期日までに支払いできないと催促が始まります。カードローンなどの借金と同じですね。
- 証券会社からの電話や手紙による催促
- 弁護士や債権回収会社による催促
- 財産の差し押さえ
追証から逃げたり、踏み倒すことはできません。FX業者や証券会社は法的措置に乗っ取り、確実に返済を迫ってきます。
多額の追証に関する対応と対策法!
追証から目をそらし続けても逃げられるどころか、確実に状況は悪くなる一方です。
その場から逃げ出したくなったり、電車を止めてしまいたくなったり、生きる希望が失われてしまうかもしれませんが、何の解決にもなりません。
いくつか追証の負担を和らげる方法があるので、まずは全て試してからにしましょう。
FX業者・証券会社との電話連絡が必須
絶対に欠かせないのがFX業者・証券会社への電話連絡です。
これを怠っていると「返す意思なし」と見なされてしまい、催促の度合いもどんどん厳しくなってしまいます。
もしFX業者や証券会社から電話連絡が来たら必ず対応しましょう。そこで追証を支払う旨を伝えることが大切です。
誠意を見せることで催促を一時停止してくれる可能性もあるので、追証のストレス軽減にもつながります。
第三者機関へ相談する
追証について1人で悩み続けることはかなり精神的な負担になります。そんな状態では的確な最善案もなかなか浮かばず、よからぬことを考えてしまうかもしれません。
そんな時は1人で悩まず、第三者機関へ相談するのも一つの手です。
親身になって一緒に解決策を模索してくれるので、ずっと精神的にも良いですし、思わぬ解決策が見つかるかもしれません。
日本国民センターのADR(裁判外紛争手続き)を利用する
追証の支払いにおいては民事裁判にまで発展してしまうケースも少なくありません。
裁判の費用も馬鹿になりませんし、できれば避けたいですよね。
そんなときは日本国民センターのADR(裁判外紛争手続き)に相談してみましょう。このサービスはできるだけ裁判に発展しないよう、業者との中立に立って話し合いを進めてくれます。
完全無料で相談できるので、まずは電話をかけてみてください。
証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)を利用する
もし追証の支払いを求めているのが日本のFX業者・証券会社であれば「証券・金融商品あっせん相談センター(FINMAC)」へ相談することもできます。
この業者は金融商品に関するトラブルの解決を図る特定非営利活動団体です。株式や投資信託、FXなどのトラブル解決に関してはかなりの経験があるので、どういった対応をとれば良いのか公正・公平な立場からアドバイスを貰えます。
こちらにも1度は相談する価値があるでしょう。
動くのは自分ということを忘れずに!
第三者機関への相談は確かに精神的な負担を和らげてくれますし、解決の糸口が見つかる場合もあります。
しかし、あくまでも頼りきりにならないようにしましょう。解決へ向けて動かなければならないのは自分です。
彼らは相談に乗ってくれますし、的確なアドバイスもくれます。ただし、行動してくれることはありません。
彼らのアドバイスを聞くだけにせず、使える策があればすぐに実行に移しましょう。
分割払いの交渉
基本的には一括払いの追証ですが、あまりに額が大きすぎる場合や、支払う意思を見せていると、交渉次第では分割払いにしてくれることもあります。
一応、過去に追証の分割払いが認められた事例はあるようです。
もちろんこちら側と証券会社・FX業者との信頼関係が成り立っていないと無理な話ですが、少しでも可能性があるなら交渉を仕掛けるべきでしょう。
ただし、あくまでもこちらは借金(債務)を背負っている立場なので下手に出ることは忘れずに。
「お前らがロスカットできなかったからだ!せめて分割払いにしろ!」
こんな態度では本来なら応じてくれた交渉も失敗してしまいますからね。
分割払いの交渉が上手くいった場合の注意点
ただし分割払いにした場合、1度でも返済を遅らせると即財産の差し押さえられる可能性もあります。
本来なら一括で払うべきだったものを、FX業者や証券会社の好意で分割払いにしてもらったにも関わらず、滞納してしまえば仕方ありません。
そのうえ、分割払いの契約書が公正調書(借金をしていることの公的な証明)となるので、差し押さえに対して抵抗することは不可能です。
分割払いにしてもらったら、確実な返済を第一に考えましょう。
キャッシング・カードローンの利用
まだ追証が100万円くらいであればキャッシング・カードローンでお金を借りて、追証の返済にあてるのも1つの手段です。
確かにカードローン・キャッシングも追証と同じ借金ではありますが、一括で返済を求められることがありません。基本的に分割払いで支払いを続けていくことになります。
金利の存在がネックですが、大きな追証を一括で支払うよりも精神的な負担や経済的な負担も軽くなる可能性も高いです。
ただし、注意点が2点あります。
- 追証が大きすぎるとそもそも借りれない。
- こちらも滞納を続けると追証と同じように給料の差し押さえなどに発展する。
本当に借りれる額なのか、きちんと返済できるのか計画を立ててうえで利用を考えましょう。
最悪の選択肢「自己破産」
追証が数百万、数千万、はたまた億クラスだと本当にどうしようもなくなるかもしれません。
そんな時は「自己破産」が頭をよぎるかもしれません。
【自己破産のメリット】
全ての借金の支払いが免除される
【自己破産のデメリット】
- 5~10年ローンやクレジットカードの利用ができなくなる
- 99万円以上の現金や20万円以上の資産を手放さなければならない
- ローン支払い中の資産を、ローン会社に返却しなければならない
- 自己破産手続き中は一切の職業につけない
- 連帯保証人に借金が請求される
かなりのデメリットがありますが、借金を一切払わなくて良いのは大きなポイントですね。
しかし、投資やギャンブルで背負った借金は「免責不許可事由」であり、基本的に自己破産することができません。
では自己破産は絶対に無理なのか?追証は100%支払わなければならないのか?
そうとも限りません。
可能性は高いと言えませんが、裁量免責で自己破産が認められる場合もあります。裁量免責とは裁判所が「今回だけは特別に認めてあげるね」という温情のようなものです。
裁判費用もかかるのでネックですが、全ての借金がなくなる可能性があるので大きな追証を背負ってしまった場合には1度検討してみる価値はあるでしょう。
追証は発生してからでは遅い!「発生しない」業者選びを心がけよう!
ここまでいくつかの対策法をお伝えしてきましたが、マイナス口座の追証が発生してしまえば「お金を支払う」以外に根本的な解決になることはありません。
負担は軽減できるかもしれませんが、それもデメリットを伴ってしまいます。
そこで大事なのは「追証が発生したらどうしよう」という考えではなく「そもそも追証を発生させない」業者選びをすることです。
例えば国内のFX業者や証券会社だと追証が発生してしまいますが、海外FX業者であれば追証を帳消しにしてくれるゼロカットシステムがあるので借金を背負うことはありませんよ。